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  2017年01月09日    

走力を決定する3つの要素を向上させるための適切なトレーニング方法

最大酸素摂取量・無酸素性作業閾値・乳酸性作業閾値を引き上げるためにどのようにトレーニングをすべきか、具体的なトレーニング手法を紹介します。

八木 勇樹

前回の記事では「陸上長距離走の記録を決定する3つの要素」として最大酸素摂取量(VO2MAX)・無酸素性作業閾値(AT値)・ランニングエコノミーを紹介させていただきました。今回は最大酸素摂取量(VO2MAX)・無酸素性作業閾値(AT値)を引き上げるためにどのようにトレーニングをすべきか、具体的なトレーニング手法を紹介します。ランニングエコノミーに関しては個々に合わせて、より専門的なトレーニングが必要となってくるため、ランニングエコノミー以外の2要素についてトレーニングを考えていきます。
※前回の記事をご覧になられていない方は以下よりご覧いただいた後で本記事を読んでいただくと理解が深まります。

最大心拍数を知ることにより効果的なトレーニングの設定タイムを導き出せる

最大心拍数からの計算により、最大酸素摂取量(VO2MAX)・無酸素性作業閾値(AT値)の能力アップを目的としたトレーニング内容・設定タイムを導き出すことが出来ます。一般の人はなかなか測定する機会がありませんが、トップアスリートは専門施設で各種数値測定を行なっております。
最大心拍数とは1分間に心臓が収縮する数のことです。この値を求める計算式として"220-年齢"と一般的に言われていますが、運動に慣れている人と慣れていない人、また体質により大きく差が出てきます。そのため最大心拍数は実際に測定することが必要です。
最大心拍数を知る1つの方法として、1km~1.5kmをラストスパートも行い、最後まで全力で走りその時の心拍を測りましょう。心拍計を持っている場合はラストスパート時のMAX心拍値が最大心拍数となります。心拍計をお持ちでない方は走りきった直後に、首など脈をとりやすい場所で10秒間あたりの脈拍数を数え、その数字を×6をした数が、あなたのおおよその最大心拍数となります。

トレーニング別に心拍数に目安をつける

最大心拍数が分かったところで、早速トレーニングの設定脈拍を算出します。

●最大酸素摂取量(VO2MAX)を向上させるトレーニングを行う場合
→目安として最大心拍数×90%程度の心拍の強度で行いましょう。最大心拍数が200の人の場合、180程度の心拍になるタイムでトレーニングを行う必要があります。

●無酸素性作業閾値(AT値)を向上させるトレーニングを行う場合
→目安として最大心拍数×80%程度の心拍の強度で行いましょう。最大心拍数が200の人の場合、160程度の心拍になるタイムでトレーニングを行う必要があります。

これはあくまで目安となります。運動に慣れている人や、より競技能力を高めたい人は設定する心拍を上げるのも良いでしょう。逆にまだ運動に慣れていない人は心拍が急激に上昇してしまうため、少し低めの心拍で実践してみましょう。

走力をアップする2つのアプローチ

スタートから全力で走り、最後までペースを落とさずそのまま走りきることが出来れば、大幅に自己ベストを短縮することが出来ます。しかし、最初から全力で走ってはトップ選手であってもペースは落ちます。このペースが落ちる要因が、前編で説明した無酸素性作業閾値(AT値)の値を超えてしまうことです。トレーニングによってこれらの値を上げる必要があります。1つの例として、5kmをトレーニング距離として説明します。ペースは自身に置き換えて考えてみてください。

まず5kmの距離を全力で走ってみましょう。レースを利用しても構いません。そのタイムが17分30秒だった場合、1kmの平均は3分30秒となります。実際には、1km毎にタイムは違うでしょう。最初に速く走り後半失速してしまったり、最初にゆっくり走り後半ペースアップをする場合など様々ですが、今回は平均値で説明します。ここからタイムを短縮したり、レースの距離を伸ばそうと考えている場合、方法は大きく分けて2つあります。

1つは、最大スピードを上げて「3分30秒」に余裕のある状態にすることです。例えば全力で1kmを走り3分15秒だった場合、平均値である3分30秒とは15秒の差があります。最大スピードが向上し3分10秒になった場合、平均値とは20秒の差になり、余裕度が上がります。この1つ目の『スピード』を鍛えようとした時に、最大酸素摂取量(VO2MAX)向上のためのトレーニングを行うのです。
2つ目が3分30秒を維持して5km以上の長い距離を維持できるようにすることです。この2つ目の『スタミナ(スピード持久力)』を鍛えようとしたと時に、無酸素性作業閾値(AT値)の向上のためのトレーニングとなります。
これらは、自分の目標とするレース種目の距離が短ければスピード向上を重視し、距離が長ければスタミナ向上を重視すると良いでしょう。

基本的なトレーニングの考え方として、例えば5kmを走る時、目標とするスピードで走り切ることができないから速いペースを短い距離に区切る、もしくは長い距離を走れるようにするためにペースを落とし5kmより長く走るという考えを持っておくと良いでしょう。

スピードを養成するインターバルトレーニング

前述の『スピード』を向上させるためには、今まで5kmにおける1kmの平均値3分30秒を上げる必要があります。しかし、現状では3分30秒より速いペースで5km走る事は出来ません。なので、5kmを1kmに区分けしてリカバリーを入れながら5本行います。これがインターバルトレーニングと呼ばれるものです。
前述の最大心拍から90%のタイム設定で行うと良いでしょう。本数間のリカバリーは心拍を一定程度落としてから行う必要があり、その時間は個人差やトレーニング強度にもよります。更に強度の高い(心拍を90%以上)トレーニングの場合、リカバリーも長めの時間をとります。この場合、インターバルとは少し異なりレペティショントレーニングと呼ばれるものになります。一方で、強度が低い(心拍が80%以下)の場合、それは最大酸素摂取量(VO2MAX)を向上されるトレーニングとはなりません。そのため、トレーニング内容を一度見直す必要があります。

スタミナを養成するペース走

前述の『スタミナ』を向上させるためには、3分30秒より少し遅めのペースで長めの距離を走る必要があります。これは最大心拍の80%程度以上で行うことが必要となります。始めのうちは、8kmぐらいの距離のペース走を行うのが良いでしょう。慣れてきたら10kmや12kmといったように距離を伸ばすのが良いでしょう。理論的にはこの無酸素性作業閾値(AT値)に達しない心拍だと走り続けることが出来ます。なので、この値を上げて基本のベースとなるペースが速くなることにより、タイムの短縮が可能になります。長い距離のレースだと一番重要な要素となります。

ペース走より遅いトレーニングは意味がない?

それでは前述のインターバルトレーニングやペース走より遅いペースで走るトレーニングはどういった意味があるのか。これは長距離走の場合、有酸素運動というトレーニングにあたります。長距離走のトレーニングでは『距離走』や『LSD』というトレーニング方法のことで、毛細血管の拡張や細胞への酸素運搬能力の向上、それ以外にも継続的に運動を行うことへの筋力の耐性、エネルギー消費効率の向上など様々な効果があります。トレーニング強度としてはそこまで高くはありませんので、比較的回数をこなすことが出来ます。

トレーニングの組み立て方

それでは、最後にトレーニングの組み立て方です。前述のインターバルトレーニングとペース走は高強度のトレーニングとなるため、筋力の回復などを考慮すると週に1回ないし2回行うのが良いでしょう。そしてその間にジョギングやLSDを行います。距離走はペースによっては強度が高くなることもあるので高強度トレーニングとして組み込むのも良いかもしれません。それぞれ目標とするレースがあると思います。そのレースの距離や自身の目標タイム・課題などによってトレーニングの組み方を考えてみてはいかがでしょうか?

色々と専門用語が多く、馴染みの無い方にとっては理解しにくい内容だったかもしれません。
ただし、今回紹介した理論を正しく理解し、実践すると記録は飛躍的に伸びます。
私の運営しているYAGI RUNNING TEAMでは、今回紹介した理論をベースにトレーニングを組み、ランナー個人の能力に合わせて練習計画も作成しております。興味がございましたら、ぜひ一度練習会にご参加ください。

八木 勇樹 八木 勇樹
YAGI RUNNING TEAM代表。早稲田大学競走部にて箱根駅伝優勝を経験し、旭化成陸上部を経て、2016年7...
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カテゴリ: トレーニングに関するTips


キュレーター紹介
八木 勇樹
八木 勇樹
YAGI RUNNING TEAM代表。早稲田大学競走部にて箱根駅伝優勝を経験し、旭化成陸上部を経て、2016年7月より独立。現在東京オリンピック出場に向けマラソン競技に挑戦...

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